野望実現計画 (6)

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「もしかして、この委員連中も引くような感じやったんか?」
「――そういう奴もおるかもしれへん。就職して落ちついてしもた奴もおるし……そう思ったから、確認のためにも、ってこうやった集まってもらうんやけどな」
「成程」
「しかし――よう判ったな」
 児玉は感心したように言った。
「そういう落胆感、俺も何度も味おうたからな。――まあ、あの環境ではしゃあないと思うけど……それでも、賛同せえへん奴が全くおらへん訳やないから救われるな。児玉もおるし」
「俺が『やーめた』って言うたらどないすんねん?」
「何を言うてんねん、お前以外一体誰がこんなアホな事考えつく、って言うねん! 何もかも捨ててまで二人でお笑いコロニーを作ろう、って誓い合ったのは嘘やったんか! ――って説得する」
「納得するとは思わへんけどな。それ以前にそんな誓いいつ立ててん! ってツッコむけど」
「うん、それは基本やな」
 わざとらしく腕を組んで、細川はうんうんと頷く。
「――で、俺はそんな説得で納得せえへんと思うぞ」
「へ? あ、いや、別にええねん。説得、って形だけのもんやし」
 軽く言い放つ細川に児玉は眉をひそめる。と、細川はにやり、と顎に指を添わす。
「児玉が『やーめた!』なんか、本気で言うてる訳ないん、判ってるから」
「……」
「ほ〜ら、図星で声も出えへん。そんな事言うて俺を試そうと思たかて無駄やで。それに、俺が此処まで信じてるの判ってて裏切る、なんつう事出来る奴やない、っていうのも判ってるしな」
 細川は楽しそうである。ぐうの音もでない児玉は恨めしそうに細川をにらむ。
「まあ、そんな悔しそうな顔すんなや。相方に自分のこと判ってもらって嬉しいやろ?」
「……そこまで言い切るんやったら、細川も裏切るなよ。俺は何よりもお笑いコロニー計画を優先させるからな。お前より優先させるからな」
「……俺の方優先されても困るけど……。小此木ちゃんは?」
「俺の動きに合わせられへんのやったら、待たせてまうか、別れるかするかもしれへん」
「……別れるとまで言い切るか。――まあ、それぐらいの心意気がないとあかんのかもしれへんけどな」
 納得したように細川はそう言ったものの、せっかくのバラ色の人生を無理矢理自分で引き裂いてしまうのも何やなあ、と思っていた。


 結論から述べると、児玉は小此木真知と別れなかった。それどころか結婚して三人の子供を産み、その子供達もお笑いコロニーの委員として働くことになる。真知にしてみれば、野望あっての児玉で「面白い事してるな。いっちょ私も入れて!」と言う気持ちで児玉と一緒にいたので、児玉は真知か野望か、と言う選択をせずにすんだのである。
 児玉と真知の漫才コンビは着実に知名度を上げていく。出産や育児で時折活動を休止したりするものの、人気は高まり、いくつかの賞も取り、テレビでおなじみの顔となる。


 細川はアクの強さが災いして、エリートコースから逸脱し始めた。
 建設業は役人とやくざ企業の世界である。細川はその人柄を買われ、建設業者(今はカタギ、と言うやくざ企業)に対する外回りが中心となる。宇宙コロニーの設計者への道が遠のいているような気がしたが、その分、企業に顔が利くようになっていた。
 三十過ぎになっても恋人もいない細川に、聖建設の社長、聖拓が目をつけ、娘の千代と結婚させようとした。
 結婚に際して、細川はお笑いコロニーの話を拓と千代にした。これで結婚話はご破算やろうな、と千代を気に入っていた細川は残念な気持ちだったが隠しきれることでもなく、最初は力無く、しかしそのうちついつい熱くなってながながと中学校から延々と引き継いできたお笑いコロニーの話をした。
「……この平穏な世界でそんなばかげた夢を持つ奴がいるとはな! わしの目に狂いはなかった、って事だ!」
 細川が全てを語り終わったとき、拓は机をどん、と手でたたいて言った。
「道理で役所の人っぽくないと思ってた。そんな人だったのね。素敵!」
 これで終わりだ、さようなら、と話しきって少しすっきりしてしまった細川に返ってきた反応は上記のものであった。
 そして、それだけでなく、話は拓の妻、千代の兄弟、聖建設の重役達にも周り、ただならぬ気骨を持つこれらの人々は細川の野望に大いに喜び、盛り上がった。
 今までお笑いコロニーに対する冷たい反応ばかり受けてきた細川にとって、嬉しいが、反面戸惑いを覚える流れとなった。
 細川は職は国家公務員のままであったが聖建設についての情報とある程度の権力を手に入れることが出来た。普通の人ならばここでインサイダー取引のひとつでもして大金を稼ぐところだろうが細川にはそんな事をしている暇はなかった。


 細川・児玉の他の委員も年を取るにつれて各分野における重要人物となっていく。今の自分に満足している、とお笑いコロニー計画から脱会(別に会を形成していたわけではないが、便宜上このような表現を用いていた)する者もいたが「俺の知り合いにこういう奴がおってな――」と周囲に話を持ち出して仲間が増えることもあった。
 大本興業内では、お笑いコロニー計画は殆どが知るところとなっていた。噂が飛び交い、ついに社長の耳にも届く。
 そんなあほな事業を社長が聞き逃すわけがなかった。社長は児玉を呼び出す。
 児玉はより明確な説明をしたいと逆に申し出、細川も呼び、二人して畳みかけるようにして社長にお笑いコロニー、そしてそれにまつわる輪廻転生プロジェクトについて語った。
 その時、細川・児玉四十五歳。二世達は三十歳となり、細川二世、拳治は一世と同じく建築業界、児玉二世、新治は弁護士の道を歩いていた。
 一世達の高校時代の変人、否、友人の柴田は四十にして会社を作り、様々な業務を手がけ、輪廻転生プロジェクトの商品化に動き出した。プロジェクトにかかわっていた研究者、特に日本側の研究者は自分対の研究が明確な倫理的議論がなされないうちに商品化してしまうことに抵抗を覚えていたようだが、資本面での援助を申しだされると、つい契約を結び、特許もとってしまったのだった。
 そして、この柴田の働きは「お笑いコロニー構成員としては当然押さえとくべき所やんな」という動機による。
 記憶注入まで行われる完全なるクローニングの最初の臨床例となる三世達は一世達が六十歳の時に肉体がクローニングされ、一世達が死亡するときまで培養器で成長させ、記憶を注入して誕生させることとなった。三世達が幼い段階では、二世達が三世達をバックアップする。
 
 
 細川・児玉一世のうち、先に亡くなったのは細川だった。
 享年七十六歳。
 脳梗塞で七十四の時に倒れ、左半身不随の状態で二年過ごしていたが、再発作に堪えきれず、亡くなった。
 いまわの際のご親族はむやみに多く、児玉も親族ではないものの六十年来の友人であり相方でもある、と言うことで臨終の席に同席した。
 殆ど意のままに動かない口を無理矢理に動かし、何かを言おうとする。
「何や細川! 何が言いたいんや!」
 妻、二人の子供、孫、妹、聖家の義兄弟、二世達、そして児玉――全員を、細川はじっと一回り、見回し、最後に相方を見てかすかに笑った。
「しつれい……いたしや、した……」
 がくっ。
 細川健一、死す。
 お笑いコロニー計画の建築部門の礎を築いた後の大往生であった。
 お笑いコロニーへの道は着実に進めていたものの、本当は、純粋に漫才をしたかったのだろうか。――細川の最後の一言に、児玉はそう思った。
 自分たちが、かつて百年掛けて漫才のプロになる話をした遠い昔を思い出す。
 自分は妻の真知と漫才をしていたが、細川は役人として、建築業者の重役員の身内として、漫才と少し離れた(しかし日常会話は基本的にギャグばかりだったようだが)場所にいることについて、淋しさを持っていたのかもしれない、と思った。
 
 
 しかし、思い出に浸る前にやらねばならぬ事はまだまだある。感傷に浸るのは何代も後、全てをやり終えてからの話だ。
 細川三世の誕生。十七歳の肉体と精神と記憶を持った細川は十七歳以降のあらましを児玉や二世達からの伝聞によりある程度把握はしたものの、そのギャップを埋めるには数年かかった。特に、相棒の児玉が同い年ではなく八十近くの爺であり、この爺が亡くなって始めて相棒が同い年の状態で産まれる、という作者も混乱しそうな年と関係の入り交じり具合になじむのに時間が掛かった。
 似たようなことが児玉や二世達にも言えた。野望に対して純粋でまっすぐであるが社会状況に対して疎く実行力に欠けた細川に戸惑いを覚えていた。
 だが、老年の児玉、壮年の二世達にとって、細川三世の未熟さは刺激となった。
 聖建設は二十歳になるかならないかの細川に対して、一世と同じ道を歩んで欲しい、と望んでいたようだが、宇宙への足がかりを作って置かねば、と日本の宇宙開発センターへ入る道を選ぶ。だが、人好きのする細川は、聖家との接触を断つこともなかった。
 二世達は、六十一歳の時、ほぼ同時に亡くなった。死因は老衰。クローンとしては最長寿を記録しての死去であった。
 児玉は自分よりも二世達の方が先に逝ってしまった事に対してかなりショックを受け――少しずつ惚けだした。
 自分が惚けだしたことをふと自覚した児玉は、禁を犯して児玉三世を覚醒させる。そして――次の自分に全てを託し、八十二歳で人生の幕を閉じた。
 多くの親族、友人に囲まれての畳の上での大往生であった。
 きっと、あの世で細川と
「えらい年とったのう。ほれ見てみい、俺なんか若いから肌ぴちぴちや」
「ぴちぴち、って腹の皮だけちゃうんかい!」と心置きなくやり取りをしている事だろう。


 お笑いコロニー計画の構成員はかなりさま変わりしており、一部のクローンを除いては、一世達の友人はいなくなっていた。
 大本興業、柴田商社、聖建設、そしていつの間にか巻き込まれた輪廻転生プロジェクトの人々が細川・児玉三世をサポートする。記憶では生きているはずの家族や友人達がいないことに落ち込んだり、自分が着手しようといき込んでいた野望がすでに動き出していることに戸惑いを覚えたりもした。しかし、相方は健在で、自分をサポートしてくれる人、自分を良く知っている気の合いそうな人も大勢いる。計画の進み具合は現状を踏まえればほぼベストともいえる状態であった。

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怒涛の如く話は続く。
本当ならもう少し葛藤とかしないか? 君達。
「俺はどうしてお笑いコロニーなんかの為に生まれてきたんや?」
「ほな、俺に会うために生まれてきた、とかの方がよかったか?」
「そんな、○おい好きな人にサービスしてどないすんねん」
「そしたら細川は太いから俺はデブ専か・・・ディープな世界やなア」
「おいおい、どこまで行くねん」
「積雪量50センチぐらいか」
「何がやねん!」
「しっつれーいたしやしたー!」

・・・・・・・・・・・・・・・・。
だから・・・・。
しかし、この流れで本気でシリアスしたらどんな具合かねえ。
暗くて、独りよがりでいやんな感じ?
誰かそんな話書いたら読ませてください(結局好きなんかい!)

今回はおまけをサービスしすぎました。
1週間の命というのに・・・。

と思ったけど、面白いからバックアップとるまで延長だい!