わらうき6 〜ついに最終回〜

わらうき5 創作世界 トップ

わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは

「来たな、妖怪め! 私も負けんぞ!!」
「わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは」

わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは

「わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは」

わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは

  あ、あたまいて……俺、もう……死にそう……。
「くっそー、パパ、なかなかやるな! しかし私だって負けんぞ! 伊達に『黄金バット』の名をもらってるんじゃないんだからね!!」
「わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは
わーはっはっはっはっはっは」

 ………
耳がキーンとなっているのが判る。辺りは沈黙に包まれていた。……? 一体、どうなったんだ?
「どうしたの? パパ」
 桧森も不思議そうな顔をして言った。
 わっはっはっはっは やられた、やられた!
 −−!? パパの笑い声以外の声を聞いて俺は腰を抜かしそうになった。
私に勝つとは大した奴だ! お前なら安心して京奈を任せられる。
「京奈……?」
「綾科さんの事だ」俺は囁いた。
 頑張ってよく笑う孫を産んでくれ。パパはいつでもお前達を−−
「ちょ、ちょい待ち、パパ! 私は女!」
 ……へ?
「私は女性と結婚できないし、したくもないの!」
 な、なんと。今の笑い声は−−女性だったのか。どうりでトーンが高いと……
 −−!? ちょっと待てよ。
「パパ!」
 俺はパパを呼んだ。
 何だもう一人いたのか。
 パパの言い方に少しムッときたが敢えて無視する。
「パパ。パパがこの木にとり憑いて笑ってたのは−−もしかして、綾科さんのお婿さんを探す為だったのか?」
 そうだ。よく判ったな。
「………」
 綾城家の男は代々笑いを継いでいくことになっているのだ。しかし私には娘しか生まれなかった。仕方がないから笑える婿を捜すために私はこの木にとり憑いたのだ。
「………」
 一瞬、この世の常識というものが音をたてて崩れていくような気がした……が何とか気を取り直しす。
「パパは−−その為にわざわざ死んだのか?」
 死? 何でわざわざ死ななきゃいかんのだ? 私はちょっと行方不明になっただけだ。
「……ちょっと待ってくれ。じゃ、パパは死んでないのか?」
 あたりまえだ。勝手に殺さないでくれ。
 俺はほっとした。パパか死んでいないのなら、綾科さんが悲しむ事は何もない。
 しかし、困った困った。
「何が?」桧森が尋ねた。
 せっかく私よりずっと笑う、立派な婿を見つけたと思って喜んでいたのに、それが女性だったとは……。
 ……このパパ、綾科さんの意志、ってもんを考えてるんだろうか……。考えてないな。
 困った困った。京奈の奴はもうそろそろ適齢期だと思ってわざわざ行方不明になったのに……。
 勝手に困ってろ。
 俺は視線を桧森に向けた。−−?
「? 桧森、どうした? 考えて込んで」
「え? いや、その、ちょっと……」
 ? 桧森は赤くなった。
「何だ? 赤くなったりして」
「……その……いや、どうも……」
 ? 全然判らん。
「−−渡真利君、パパっていくつか知ってる?」
「? 知らん。訊いてみたら?」
 わーはっはっはっは 私は四十九歳だ! 先刻の黄金バットさんは?
「わ、わたしは二十七……」
 愛の前には年の差など無力だ!
「−−パパ!」
 私はまだまだ若い! 黄金バットさん、お名前は?
「桧森陽子! パパは?」
 綾城陽次!
「おお−−!」
 私達はきっと似合いの夫婦になるぞー!
「そうよ! そして二人でよく笑う素敵な息子をつくるのよ!」
 そうだ、陽子さん! 私はすぐにでも蘇生してあなたにプロポーズしに行くぞ!
「まあ、嬉しい!」
 では、君の住所と電話番号を−−
 ……。一体……。一体、この展開は、一体、一体……。
 俺は状況の展開についてゆけず、ただ、茫然としていた。
 それでは、さらばだ!
「……」
「−−へへへっ。婚約者ができちゃった」
 桧森は恥ずかしそうに鼻をポリポリ掻いて言った。
「桧森、お前……」
「−−何?」
「ほ、ほ、ほ、本気であのパパと、結婚するつもりか!?」
「うん!」
 −−強い肯定を前に、俺は絶句する他なかった。
「娘を想うあの優しさ、あの笑い−−どれをとっても私の理想なのよ!」
 ……。理想。……。俺、桧森という人間をますます理解できなくなった。……。
 桧森はそんな俺の混乱をよそに、家に入ろうと玄関の方に行く。俺も仕方なしについて行った。
「あ、あの……どうでした?」
 綾科さんは心配顔で玄関にやって来た。
「大丈夫です。もう、パパは笑いません。それで−−唐突ですが、今度、パパと私、結婚する事になりましたんで……よろしく」
「−−え?」
 あまりにも急な展開に綾科さんは完全に硬直してしまった。
「今日はもう帰りますが、亦、明日にでも……」
 桧森は早口にそう言うとドアから出る。−−お、おい!
「桧森、待てよ! 俺一人でこの事態の説明しろ、って言うのか?」
 俺は桧森を追いかけて外にでた。綾科さんも気になるが、桧森の方が急を要する。
 桧森はもう門を出ようとしていた。
「頼むわ。私がいると、話が複雑になると思うし」
「−−」
「亦、明日、娘の顔を見に来るし」
「……」
 桧森はにやっと笑った。
「−−そのうち、渡真利君にも『お義母さん』って言われたりしてね」
「……って……」
 俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ちょ、ちょっと待てよ! な、なんで、お前は、そう−−さっきだって……」
「あれ? まんざら嘘でもないと思うけどな−−。昔から渡真利君って、弱い子を庇うような感じで−−」
「それとこれとは−−」
「ま、いいや。私は帰るから。頼んだわよ」
「え? あ、おい!」
 俺の制止の声もきかず、桧森は出ていってしまった。
 はあっ。−−俺は思わず深い溜息をついた。
「……渡真利さん」
「☆☆☆!?」
 背後からの綾科さんの声に俺は驚いた。−−綾科さんはドアから顔をのそかせている。……ほ。どうやら話は聞いてなかったようだ。
 俺は中に入った。二人で応接間に行く。
「あの……説明して頂けませんか? 最初から。ちゃんと聴きますから」
「はい」
 綾科さんは膝を揃えてソファーに座る。俺は彼女の前に座り、話し出した。


「……そうですか。じゃ、もう、パパは笑わないんですか?」
「……そうなりますね」
 沈黙。俺は、何も言う言葉がなかったので綾科さんの言葉を待っていた。
「−−それじゃ、もう来て頂けないんですか?」
「……ま、仕事は完了しましたね」
 −−しかし……。
「あ、飯、うまかったです」
「−−いつでも、来て頂ければ、作りますよ。これぐらいしか能がないし……」
「−−はい。……じゃあ、もうそろそろ帰ります。……亦、明日」
「−−!? は、はい!」綾科さんの笑顔。
 俺は−−心が二分して戦う声を聞いたような気がした。
(そうだ。綾科さんはかわいいじゃないか。料理もうまいし。何の不満があるというんだ!)
(綾科さん自身はいいよ。でもなあ−−パパと桧森はどうするつもりなんだ! パパと桧森は!!)
「お休みなさい」
 綾科さんは笑顔で言った。
 未来なんて……今、考える事じゃない。今は、ただ、今の事だけを考えてればいいんだ。……そうだ。
「お休みなさい」
 俺も笑顔でそう言って、ドアを閉めた。
 ぱたん。

                                 (おしまい)だろう
初書1988.06.01-7.28

あれ? あとがきなんてあるんだ。読んでみよう
創作世界でもっと刺激を
トップでじっくり考え直したい
わらうき5を読み返したい
もうお腹いっぱい