鸚鵡

彼が自殺した 人が騒ぐ 何故死んだのかと
遺言状が見つかった
「鸚鵡は殺さないでくれ」
それだけしか書いてなかったという
唯一つのわがままだった白い鸚鵡
彼の身内が誰一人として世話をしようとしなかったので私が引き取った
「タム」という名のその鸚鵡は 主人の死を知ってか知らぬか 暫く何も言わない日が続いた
彼もそんな奴だった
いつでも動物のような深い眼をして全てを見ていた
    その彼が死んでしまったのだ

「好きです」

初めてタムが口を開く
「好きです」

やけになったように繰り返し言う
「好きです」「好きです」
(鸚鵡は殺さないでくれ)
    判った。何故、彼が他の言葉をうち捨ててそれしか書かなかったのか

彼は生きたかったのだ
             全ての意味で
ただ 生き方を知らなかったがため 自らやり直しを強制する他なかったのだ
「好きです」
自分の意志というものを良心や世間体などに押し流してしまったから 彼は
だから いつもなにも見ていなかったのだ
「好きです」
誰かに対するこの言葉も言えずに

流されるのも嫌で でも一人歩きも恐ろし気で
そして”今更”という思い
そして せめて自分の人生なのだと証明するかのように
自分の心で自ら命を絶ちきった
「好きです」
相手は誰だったのだろう?
そんな事を考えてみる
無意味なのは判っているが

泣きたくなったが 泣かなかった
悔しかった
何も判らない自分が
愚かすぎた彼が
今更という想いが
後戻りしない時間が

       今でも、自分は自分のために生きていると証明するために死ぬ者がいる


夢実の言霊
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