河内音頭に抱かれて・11

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11 河内女はお節介

 霞を取るなら河内音頭とは関わりを持たない――皮肉にも、霞の意向とは裏腹に秋は冬哉とそんな約束を交わしてしまった。
 しかし、秋は別段後悔はしなかった。
 長い人生、一夏ぐらいは河内音頭と関わりのない生活を過ごしてもよかろう、と思っていた。それに、河内音頭と関わりを持たないといっても、家でCDなんぞを聞いていることまで冬哉がチェックしているわけでもない。
 幸い、ここは東京。盆が来ても帰りさえしなければ、音頭取りの依頼もこない――と思っていたのが甘かった。

「はい、上田です」
「ああ、得丸君!」
 携帯をとった秋はぶっとんだ。
 営業ならば誰しも持つ携帯電話。その仕事用(確かに私用にも幾ばくか使用しているのだが)の電話で、「得丸君」等と呼ばれようことがよもやあるとは思っていなかったのだ。
 取り敢えず、寮に帰ってきてからの電話でよかった、と思いつつ、同室の人間に遠慮して、秋は人気のいないロビーまで出ながら電話に対応した。
「うちや、うち。佐々木や」
 今、秋の頭の中で「佐々木」というと、冬哉しか浮かばない。
 しかし、そんな暗い面など全てぶち壊すような明るい声に、冬哉の母親(しかし、この親子は、ホンマに全然似とらんのう、と秋は二人を頭の中で並べる度に思うのだが)の貞子か、とすぐに思い当たった。
 しかし、貞子だからと言って、嬉しいかどうかは危ぶまれる所ではある。
「あ、ああ、ご無沙汰しております」
「ホンマにご無沙汰や。どないしたん? 仕事忙しいんか? 本番はもうすぐ目の前や、っていうのに、最近全然顔だしてくれへんやないの。今年の櫓は得丸君に歌いまくってもらう予定してるのに、来てくれへんかったら困るやないの」
 ちょっと待て。そんな約束一ミリもしてへん――しかし、まくし立てる貞子に、そんな口を挟める余裕などなるはずもない。
「八月の十三日、大丈夫やんな? 取り敢えず、冬哉にチラシ渡しといたけど、もらってくれたか?」
「え……いえ、頂いてません」
 この場合、一番辛い立場にあるのは一体誰でしょう? ……少なくとも、貞子でない事は確か。
「そ、それより、この携帯の番号、一体誰から聞いたんですか?」
「そら、冬哉からに決まってるやん。あの子、なかなかイケズして教えてくれへんでなあ。ホンマ、しゃあない子や」
 しゃあないのは、アンタの方や! と、きっと冬哉も思っていたに違いないことを秋は考えていた。
 しかし、その思いを口にしてみたところでなんの解決もえられないことは重々承知している。それどころか、その十倍もの言葉が返ってくることは間違いない。
「まあ、でも、本来なら仕事用の電話ですからね」
「それや、それ! 冬哉もそんなこと言うとったわ!」
 冬哉と同じリアクションをしていた、というのはあまり嬉しいことではないが、この場合、そうなっても致仕方がない、と秋は自分を納得させた。
「ま、そんなことはどうでもええねん」
 全然どうでもよくないのだが、口を挟めない秋は黙っていた。沈黙は金である。しかし、このような状況にあって黙っている、ということは納得されている、とおばちゃん達は考えがちである。
 そして、貞子もその例に漏れなかった。
「それで、来てくれるな! 錦糸町河内音頭。冬哉にチラシもらっといてや! それと、練習にも来てや! もう、本番前やからな、週末言わんと、毎日やってるし。山本さんとこ、ちゃんと覚えてるやんな」
「は、はあ……」
 その当の冬哉さんから河内音頭禁止令が出てるんですよ、などと言えるはずもなく、秋は力無く返事した。
「あ、ああ、あと、中野さん! あの子も数に入っているし」
「か、数、って……」
「三味線や! まあ、お世辞にもうまいとはいわれへんけどな。あれは練習不足やな。今からでも毎日練習したら何とかなるとは思うけど。冬哉にも言うてるんやけどなあ……どうも、あの子は河内音頭嫌ってるから……」
 貞子が少し悩む口振りになった。その言葉に、秋はずっと思っていた疑問を口にすることにした。
「何で、冬哉さんは河内音頭嫌いなんですか? というか、大阪全般を嫌ってはるみたいですけど……」
「あの子の父親、まあ、私の旦那になるんやけど、その人が、河内音頭ドームの工事の時に怪我してな。それで荒れてしもたからとちゃうかなあ。その時ぐらいからやから」
 そんな深刻な過去を母親とはいえ、さらっと言ってしまっていいものか。作者の伏線とか思惑とか、そういうものを全く無視して貞子は言った。
「まあ、もともと目立ちたがりとかちゃうかったから、浮いとったけどなあ。それでも、一緒に河内音頭とかにはよう行ったもんやで。殆ど踊りやれへんかったけど。なんか、女の子に誘われて嬉しそうに踊ってた事はあるけどなあ。あのころは私も若かったなあ。そうそう、雪丸はんも若かったわ。得丸君、雪丸はんの若い頃に似てるんとちゃう?」
「まあ、たまに言われることもありますけど――いや、そういう話やのうて、その……今年は、盆は家に帰ろうか、と思ってるんで、錦糸町の方には……」
「え! な、なんで!?」
「何でと言われても……」
 普通、盆には家に帰る、って思う方が普通やろ。
「同じ日に向こうでもあるんか? せめて今年ぐらいはこっちで唄っていったらどないや? うち、得丸君説得する、って言うてしもたから、今更引っ込みつかへんのや」
 勝手に約束したのはそっちでしょう――そう言ってもおかしくはなかったが、そこで怒らせてしまうと何が起こるか判らない。
 基本的にはおばちゃんは丁重に扱うべきものなのである。
 たとえ結果的につけあがらせてしまうとしても。
 ふと、冬哉はこうまで貞子が自分にこだわっていることを実は判っていて「河内音頭との関わりを断つこと」などと約束させたのかもしれない、と秋は思った。
 いくら身内のことは仕方がない、とはいえ、母親がこうまで自分の嫌いな、嫌な思い出のつきまとう河内音頭にこだわっているのは気持ちのいいものではない。できれば切り離してしまいたいと思っているに違いない。だが、今年は大阪から河内音頭の、未熟ながらも歌い手がやってきた。とてもハッスルしている。そして、事もあろうにその歌い手と恋の鞘当てをした。まあ、霞を巡る闘いには冬哉は勝ったわけだが、まだ「河内音頭」という、重大な問題も残っていた。
 秋が唄うのをやめて母親の勢いが沈降してくれるもよし、秋が唄ってこれからの霞との対面を拒否したと判断してもよし、どちらに転んでも、冬哉にはお得な二者択一であった。
「……取り敢えず、実家の方に聞いて見ますわ」
「そんなん……大丈夫なん?」
「え?」
「関東で河内音頭してる、って言うて……反発しはれへん?」
「……。ま、まあ、貞子さんみたいな人もおられますし、在東関西人が集ってやってる、と言えば大丈夫でしょう」
 実は時既に遅し、なのだがそんなことまで説明している余裕はない。実家の方に聞いて見る、と言うのも単なる時間稼ぎにすぎないのだ。
 しかし、実家に連絡する、と言った途端にそんな反応を示す、と言うのもなかなかすごい話ではないか。しかし、秋はそんな風には全く思わなかった。関西人、大阪人の関東、東京嫌いは一般常識と述べてもよいのかもしれない。
 嫌われている東京は大阪のことなぞ鼻にもかけていない、と言うのはおいておくとして。
「ほな、色好い返事待ってるで。あ、ああ、ちょっと、中野さんにも、十三日の予定どないか聞いて、教えてくれるか? 判ったら、冬哉にでも言うてもらったらええし」
「……。それやったら、それこそ、直接冬哉さんから言うてもらったらええでしょう。同じ職場なんやし」
「どうせ毎日デートしてるんやろ? 冬哉に頼んでもなあ。そういうこと、なかなか『うん』言うてくれへんし」
「最近は俺の方も何やかんやと忙しいから、中野さんには会ってないんですよ。ちょっとしたらすぐに盆休みですしね。冬哉さんに頼んだ方がええですよ」
「……まさか、得丸君、中野さんとケンカしてんの?」
 おばちゃんというものは、こういうときに妙に勘が働いたりするものだから、困りものである。
「え、いえ。別に。ただ、俺の方が営業やから、どないしても忙しくなるもんで……」
「……。しゃあないな、私が直接、言うわ」
「……。ええ!?」
「冬哉に言うたかて、全然アテにならへんもん。多分、中野さんは強くプッシュしたらなあかんみたいやし。プッシュしたらいけそうや、っちゅうのもあるねんけどな」
「……」
「得丸君、中野さんの電話番号、知ってる? って、知らんわけないか。教えてくれへんかなあ」
「……いや、そういうのは……本人の承諾を得ないと……」
「なにケチな事言うてんの! 得丸君かて、中野さんと一緒に櫓に乗りたいやろ?」
 言われて、唐突に、本当に唐突に、ビジョンが浮かんだ。
 提灯をたくさんつり下げた櫓。その上で、お囃子さん数人と共にマイクを握る自分。お囃子さんの隣に、浴衣姿の霞。色とりどりの浴衣を着て踊る人々。はしゃぐ子供。屋台の親父。ソースのにおい。甘い綿菓子。渦をかく人々。自分の唄で踊る踊る……。
 自分の中で膨らませてしまった情景に、一瞬、秋は飲み込まれそうになった。しかし、霞が自分に対して微笑みを浮かべた姿を思い浮かべた瞬間に、甘い夢は消えた。理性が消した。
「取り敢えず、俺の方から、言えたら言っておきます」
 貞子にこれ以上口を挟ませないように、強い口調で秋は言った。秋が少し怒った風を装ったのが効をきしたのか、貞子はそれ以上はなにも言わなかった。
 電話を切った後、秋は深い溜息をついた。取り敢えず、自分はなにも動かないでおこう、と心に決めた。


 「ああっ、中野さん、こっちこっち!」
 テーブルが三つとカウンターだけの小さな喫茶店で、霞は入るなり大声をかけられた。そんな声なぞかけられなくとも、ちょっと見回せば充分に貞子を見つけることができたであろうのに、である。
 しかし、そんなことにまでいちいちツッコミを入れていては話が進まないのでこの程度にしておく。
「とりあえず注文だけしとき、これ、メニュー」
「あ、すみません」
 霞は、しょっぱなから貞子のペースに飲まれていた。そしてその渦の中で、どうして自分は貞子の呼び出しに応じてしまったのだろう、と後悔に襲われていた。だが、後悔先断たずとはまさしくこの事、現実離れした現実を受け入れるほかなかった。
 待ち合わせに貞子が指定した喫茶店は、貞子にとってはなじみのようであった。近所の奥さんが経営しているらしい。そういう、話の内容が筒抜けになるような所をまさか待ち合わせに場所にしていたとは思っていなかった霞は、非常に居心地の悪い気持ちがした。
「貞子さん、祭りの練習行かなくていいのか?」
「これも大事な話なんや! ちょっと黙っといて!」
 貞子の一喝で、これもまたなじみらしい客が黙る。店にはインストロメンタルの有線放送だけがかかっていた。この沈黙の中、真剣な話をするのはなかなか辛いなあ、と霞は思っていたが、当の貞子は全く気にしていないようである。
「それで、昨日も電話で話してたけど……どない? 八月十三日」
「その辺はちょっと……実家に帰るつもりしてますんで」
 霞が曖昧な笑顔のまま応えると、貞子は溜息をついた。しかし、大業な溜息で、どうも真剣には見えない。
「得丸君もそれ言うとったしなあ……向こうで示し合わせて、デートでもすんの?」
「え、いえ、そんな……」
 霞としては、その誤解は是非とも解きたいところであった。しかし、だからといって「お宅の息子さんとつきあってるんです」とも言える筈もない。
 言ってもいい、言った方がいい、言わなければ、という気持ちがあればこそ、今日貞子と会うつもりになったのだが、いざ貞子を目の前にすると、なにも言えないのだった。
 本当に、全然違う親子だなあ。
「……正直な話、霞ちゃんにとって、三味線、って何?」
「え?」
 突然深刻にそんなことを言われて、すぐさま応えられるほど、霞は三味線について考えてはいなかった。というか、質問が唐突すぎるのだが。
「単なるお遊び? そやけど、わざわざこっちまで三味線もって来た、って事はちょっとぐらい大事なモンやと思ってるんやろ?」
「ちょっとは……母が、三味線のお師匠さんやってて、その関係で始めたから、好きかどうか、というのはあんまり考えた事がないんです」
「そしたら、結構小さいときからやってたんとちゃうん?」
「まあ……ちゃんと習い始めたのは五歳の時ですけど」
「五歳……それで、あの腕?」
 おばちゃんというものは言葉に容赦がない。お前は下手だ、などと言われたのは師匠である母親ぐらいだった霞にとってその言葉はショックであった。
「あ、あの腕って……でも、私、暫く練習してないし」
「うん。そうやと思う。そやから、三味線のことどない思ってるんや、って訊いてんねん。普通の人とは違うことができる、程度の認識やったら三味線がかわいそうや。この間かて、最初は無茶苦茶やったけど、二時間もしたら得丸君と結構合うぐらいなってたやん。だいたい、人前で弾かんと、なんのための楽器や。どないや? 私の言う事間違ってるか?」
「……間違ってないと思います」
「ほな――」
 これは落とせる! と貞子は満面の笑みを浮かべた。霞が行くと言えば自ずと秋も来るであろう。説得役を勝手でた自分の立つ瀬もあるというものだ。
 が。
「得丸君以外に、歌い手さん、ってこられるんですか?」
「へ? あ、ああそら、何人か呼んでるけど。人集めなあかんから、有名どころの人も、呼ぶで」
「三味線だけ飛び入り参加、ってできませんかねえ?」
「……え? 得丸君は?」
「だから……多分、得丸君は来ないと思います」
「中野さんが説得しても?」
「……はい……」
 貞子の視線が痛くて、霞は意味もなくアイスティーに口を付けた。
「……もしかして、あんたら、別れたん?」
 素直に頷くつもりが、そうはできなかった。他の客が耳をそばだてていたが、霞も貞子もそんなことは気にならなかった。
「……別れるも何も、つき合ってませんでしたから」
「……うそオ。ムッチャ、息合うてたやん」
「だから……どちらかというと、幼なじみとか、兄弟とかそんな感じで……」
「恋人にはなられへんかった、ってか?」
「まあ……」
 こういう話を貞子にすると、はやし立て、人に話まくるだろう、とは判っていたから、本当は言いたくなかった。しかし、誰かに言いたい気持ちがあったのだ。しかし、友人達は既に秋とつき合うのはかっこわるい、などというものが大半であったし、冬哉にはそんなことを言えるはずもなかった。
 誰かに、秋に対して評価の高い誰かに、自分が秋を振ってしまって、冬哉を選んでしまって後悔していることを判って欲しかったのだ。
 そして、思ったよりも貞子は真剣に霞の言葉を聞いていた。
「それは……得丸君が、中野さんを振ったんかいな」
「いえ……私が……もっと、他に、好きに人ができたから……」
「兄弟やのうて、恋愛感情を抱く人ができてしもた、ってやつやね」
 うんうん、判るわー、と言いたげに貞子は何度も頷いた。
「そやけど、中野さんは未だ得丸君に未練がある訳や」
「未練、って言うか……友人として、会い続けたいとは思ってますから……」
 貞子の顔に「ムシのええ話やな」と言いたげな表情を浮かんだのを霞は見逃さなかった。
「秋君、ってどないなるか、見てみたいじゃないですか。自分で振っておいて、そんなこと言う義理じゃない、って重々承知の上ですけど」
「……ほんで、その、今好きな人、って言うのはどないなん?」
「え?」
 貞子の頭の中では話は続いているのだが、当然霞には話題の展開、いや、変換についていけない。
「どない、って?」
「河内音頭や。ええとおもってるんか、悪いと思ってるんか、それとも知りもせんのか。その人も引っぱり出せたら、来るやろ? 十三日」
 今度はその手できたか、と霞は心の中で苦笑した。
 しかし、霞の恋人を引っぱり出しておとりにすることは霞自身を引っぱり出すより余程困難なことであろう。
 果たして、自分が冬哉とつき合っていることを言うべきか、言わざるべきか……霞は、そして作者は悩んでいた。
「盆踊りとかそういう土臭いことはあんまり好きな人ではないみたいで……」
「なるほど、冬哉みたいなタイプか。そしたら、その手は使えんな……」
 みたいな、どころかそのものなのだが、どうしてもその事を口に出すことができない。
 やはりそれは相手が貞子だからだろうか。
 それ以外の理由の考えようもないが。
 今、貞子の頭はフル回転していた。
 余計なことにはいろいろ計算高いのもおばちゃん特有の能力である。
 どうすれば秋を、そして霞を錦糸町河内音頭に連れてこさせられるのか。
 同じ頭の中では、関西からの歌い手の数が多いほど、今回の知事視察における関東おんどーむに対する感情はよくなるはずだ、との思いがあった。
 特に、得丸は比較的有名で、関東、特に東京に対して悪感情を持っている雪丸の息子である、と言うことは知っている人は知っている(当然だが)話である。その得丸が盆踊りに参加、というのはお手柄となることであろう。
 当然、ただ単にお祭り騒ぎで誰もかしこも盆踊りに来て欲しい、という考えもあるのだが。
「中野さんも来てくれたら、冬哉も来るかなあ……」
 貞子の何気ない一言は、霞を動揺させた。まさか、自分と冬哉がつきあい始めたことを知っているわけではないだろうが、それでも冬哉の名前がでてくる度にどきどきしてしまう。どきどきと言っても、この場合、ときめきのどきどきとは少し違う。
「たまには、中野さんも羽目をはずして、ぱーっと三味線弾いて、踊った方がええで。アンタ、ホンマはもっと大騒ぎな子やろ?」
 またもや唐突な話題に、霞は面食らった。
 しかし、あたらずとも遠からず、である。そんな本性を少しあっただけで見破ってしまうとは、やはり河内のおばちゃんの腕の冴えか。
 しかし、そんな才能はこんな事ぐらいにしか活用のしようがない。
 実は、ちょっとだけ、ほんとうにちょっとだけ、霞は河内音頭に行ってもいいかなー、と思い始めていた。
 きっと、冬哉に相談したら、反対されるだろうから、一人で……。
 秋は、ひとまず声はかけずにおこうと心に決めた。冬哉の言ったことを神妙に聞くつもりではないが、今の所、秋に会うのは心が痛んだ。
「まあ、また練習においでーや。マンションとかやったら、練習でけへんねんやろ? なんやったら、河内音頭の練習の時でのうても、山本さんに言うて離れ貸してもらったらええし。言うてくれたら、手配するさかいにな!」
 霞がやや脈ありなのを見て取ったのか、貞子は明るく言った。
 そして、霞は思わず頷いてしまった。

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