言ってしまった。

「君は……空みたいに優しいな」

頭上の深い青と遠方のはかなげな蒼の
雄大で微細なグラデーション
高すぎるくせにくすまずに行き過ぎる雲と
そんな大きな空を茫洋とまたぐ飛行機雲

こんな空の下
一緒に歩いている君の存在を思い出した
同時に
そんな言葉を口にしていた

君は、黙っていた。

また、こいつの唐突な思考回路ショートが
起きたのか、などとあきれているんだろうか
それとも聞こえないふりしてやりすごそうと
しているんだろうか

同じ言うにしても
もう少し
さりげない
少なくとも
気障にならない言葉があったのでは
ないか、と省みる
それに、日頃の感謝を表すにしたってこんな
何もないときに唐突に言っても
相手も戸惑うだけだ

けれど、私は、言ってしまった。

「言ってしまった」けれど
後悔するほどの言葉でも、状況でも
ないと思う

言いたくて言えない感謝の言葉が
こんな風に心が開放された瞬間に
ポンと
言えてしまえる自分が嬉しいし
言えてしまえる相手がいる事が
嬉しい

かなり訳の判らない言葉だけど
ぼやぼや歩きながら
空を見上げていた二人なんだから
気障ながらもさりげない誉め言葉
である事は
判ってもらえるだろう

判ってもらえないような人なら
私はそんな事言えなかった筈だ

言ってしまった気恥ずかしさから
君を見れずに
ほけほけ歩く

「有難う」

だいぶん間があいて
少し嬉しそうに
少し恥ずかしそうに
恐らく仏頂面で
君は
応えてくれた

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