青い夢で (2)

 その3 トップ 創作世界

 一学期の期末テストも終え、夏休みが始まった。
「お前、ちょっと焼けたんじゃないか?」
「え? 本当? ちゃんと日焼け止め塗ってるんだけどなー。汗かくしタオルで顔がしがし拭くから意味ないのかなー」
「まあ、毎日毎日こんな炎天下にいれば焼けもするだろう」
 アケミの所属する軟式テニス部は試合などがない日は午前中、ハルキの所属するパソコン部はだいたい毎水曜日の午前にクラブがある。
 どちらもとなく水曜日は合流し、アイスを食べて近くの公園で軽く話すのが恒例となっていた。
「あ、来週はパソコン部休みだから。お盆。軟式もか?」
「うん。あー、来週はこのアイスが食べられないのか〜」
「アイスぐらい、親に買ってもらえばいいだろ。ってか、それ買う小遣いぐらい持ってるだろ?」
「いや、アイスは食べられるけど……。クラブで頑張ってさ、こうやってハルキにおごってもらってだらだらおしゃべりしながら食べるアイスがおいし〜のよ〜!」
「……そりゃどうも……」
「礼を言うのは私の方よ。おごってもらってるし」
「――アケミ、他の日はほかの誰かにおごってもらってるんだろ?」
「何で?」
 あっけらかんとしたアケミの笑顔にハルキは言葉を失った。
 ――何で?「何で?」って言ったか、今? 俺のほうが「何で?」だよ。何で俺だけがお前にアイスおごってやってるんだ?
「アイスはトーコとかと帰りに食べたりするけど、おごってもらってるのはハルキからだけだよ」
「――」
「……ハルキ……?」
「――」
「えーっと……怒ってる?」
 ハルキは能面のような無表情である。
 それが怒っているのかどうかアケミには判断できなかったのだが、この状況からしてハルキが抱く正当な感情は怒りだろうと思い、アケミは恐る恐る訊ねた。
「いや。怒ってはいない」
 確かに怒りではないハルキの口調に、アケミはほっとして解けかけたアイスをコーンとともに口に詰め込んだ。
「――が」
「……が……?」
「何で俺だけがアケミにアイスをおごっているのか、実はそのことは理不尽ではないかと気づいた」
「――七回目にしてようやく?」
「そう、七回目にしてようやく――ってなんでそこでさくっと七回目、って出てくるんだよ!」
「全盛種類制覇しようと思ってるからサクッと出るのよ」
 ししし、とアケミはずる賢そうにわらう。
「おま……」
「ハルキの懐が厳しいなら、別に自腹でもいいけど……最後までおごりがうれしーなー♪」
「最後まで、って……三十一種類か……?」
「えー、っと、期間限定のものもあるから四十近くある筈……」
「今はいいけど、冬のアイスは寒いぞ」
「店内だったら大丈夫よ」
「年間計画かよ」
「来来週からダブルとかトリプルでもいいよ!」
「……お前、本当にいい性格してるな……」
「えへ♪」
「ほめてない」
「――」
「――おとなしくシングルで我慢してろ。卒業までおごってやるから」
「え、本当!?」
「あ、でも三年になったらクラブないし無理か」
「な、なら、図書館デートを毎日すればいいじゃない!」
「……」
 何故「デート」をつける。
「――どうしたの?」
「何で……」
 思ったことを口に出そうとしたものの、何故か途中で踏みとどまってしまった。
「お盆休みはどこかに行くの?」
 ハルキの止まった言葉など気にもかけずアケミは聞きたいことを口に出す。
「ああ、行く、っていうか田舎に帰るだけだけどな。アケミは?」
「そんな、旅行みたいなのはないなー。トーコたちと海行く予定してるけど」
「うえ。毎日外でテニスして休みの日まで外行くのかー。元気だな」
「ハルキはインドア派だもんね」
「まーな」
「――ね、一緒にプール行かない?」
「えーっと……。アケミさんや、君の話は俺の思考回路をぶった切るようなことがままあるんだが、今のはそのベスト3に入るレベルのものですよ」
「そう? 有難う♪」
「ほめてない!」
「えー。ベスト3でしょ? ワーストじゃなくて。ほめてるじゃない」
「……そういう所は頭の回る……。まあいい、何でその話の流れで俺をプールに誘うんだ? 俺はインドア派だとアケミ自身認めただろうが。それに、お前は海に行くんだろ? なんでプールなんだ?」
「え? ちゃんとつながってるよ? ハルキはインドア派だから外に連れ出してあげなきゃいけないなー、っと思ったから誘ったのよ」
「――そりゃどうも」
「で、海はハルキが田舎行ってるから日程的には無理だし、でも続けて海行くのは私も疲れるな、って。じゃあプールとか手近でいいじゃない? ハルキ泳げるの?」
「泳げなくはないけど……」
「ど?」
 ――二人で行くのか? いや、別に俺はいいけど、いや、プールは疲れるし熱いし正直いやなんだがいやでもせっかく誘ってくれてるんだし、そういやアケミって突拍子もないことやったり言ったりするけど実は自分なりにしっかり筋道立てたて考えてて、時々感心させられるんだよなー、ってそうじゃなくて……。
「プールだけじゃ一日もたないからプールあるふりパーにしてくれ」
「え、それじゃあ高いじゃない。悪いよ」
「……『悪いよ』……?」
「プール入場券付き一日フリーパス五千円、二人分だと一万円もしちゃうよ? それだとお昼……はあそこは持ち込み可だからお弁当作ってもいいけど、お茶もしたいし……」
「アケミさん。何で俺が二人分払うことになってんの!?」
「市営プールでいいよ。二人分で八百円」
 絶句するハルキにアケミは満面の笑みを見せた。

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