君の夢を僕は知らない

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 これで七日目だ。
 決して眠りは浅くないと思うのに、なれない空気に思わず目が覚める。
 体は睡眠を欲しているのに、頭の芯が冷えていて、眠れない。
 僕は物音をさせないように、体を起こす。物音をさせたところで隣で眠る妻が起きる訳じゃないのは判っているけど。
 上着を羽織り、魔法瓶に水を入れ、電源を入れる。
 目的の物の保存場所は一昨日から確認済みだ。
 チラシで安売りの広告を見るたびに買い出しに行くくせに全然消費しないものだから、水屋の一部はカップラーメンに占領されている。
 その消費に一躍買う。
 時計は午前を示していた。
 こんな時間の食事は健康にもよろしくないし、体重・脂肪増加に着実に貢献する。
 それは自分で判っている。
 今のところはもう少し太った方がいい、程度の体型がこんな毎日を続けていては「もう痩せなさい」体型になるであろう事は想像に難くない。
 魔法瓶がぶつぶつ言い出した。
 妻は起きる気配を見せない。
 魔法瓶の音に、妻のうめき声が消される。
 そして、僕は少しほっとする。

 妻がうなされる原因を、僕は知らない。
 妻自身、よく判っていないようだ。
 お向かいに新婚さんが引っ越してきた頃と時期が合っているからそれが原因ではないかと思うが、妻に「お向かいさんはどう? 正直なところ」と問うても「奥さんがおもしろい人でね」と陽気な返事が返ってくるだけだった。

 始め、自分が何故目を覚ましたか判らなかった。
 次の瞬間、隣から怖い声がした。
 それが妻のうめき声だと気づくのにしばらく時間がかかった。
 隣に妻以外の人がいるはずもないのに。
「おい! 大丈夫か!」
 妻を揺り起こすと、「何よ!」と普通にたたき起こされた不機嫌な反応が返ってきた。
 翌朝、「昨日、なにか怖い夢でも見てたのか?」と訊いても「何が?」と不審そうに言われただけだった。
 起こした事も記憶になかったようで、それから妻を起こすことは諦めた。
 しかし、妻の、日頃からは想像もつかない低いうめき声に頭はさめて、眠れなくなった。
 だからといって夜食に走る必要は全くなかったのだが。

 魔法瓶が静かになる。
 カップの蓋を半分開け、お湯を注ぐ。
 三分待つのだ。
 この食事の時間分、睡眠時間は削られる。
 しかし、結局夜食を取らなかった二晩は妻は今度はいつうめき声を上げるのか、とドキドキして、うとうとしては目が覚める状態でとても眠れたものではなかった。

 蓋を開けるとカップラーメンの、決して体には良くなさそうだが人の空腹感と幸福感を刺激する匂いが立ち上った。
 そして、お茶を入れ、食べ始める。
 作るのに要した時間とほぼ同じ時間で食べ終わり、歯を磨いて布団に潜り込む。
 もう、隣からは安らかな寝息しか聞こえない。

 それに気付いたのは夜食を食べ初めて三日目のことだった。
 夜食を取ってからは熟睡できるようになったのは、お腹がくちくなったことと、気分転換できたこと、それが理由だと思っていたのだ。
 それも確かに安眠への誘い水だったのろうが、それ以外にも大きな理由があったのだ。
 妻のうめき声が聞こえない。
 四日目に、いつ妻の声がしなくなるか気をつけて聞いてみた。
 五日目に、試しに妻の目の前でカップラーメンの蓋を開けてみた。

 僕が、妻のあんな幸せそうな顔を見たのは何年ぶりだろう。

 以来、深夜のカップラーメンは僕の日課になりつつある。

「ああ! またカップラーメン食べたでしょ!」
「え?」
「とぼけても無駄よ! わざわざ外のゴミ箱に食べかす捨てたって判るんだから!」
「ばれたか」
「よその家で旦那さんが深夜にラーメン食べて困る、って話、人ごとだと思って聞いてたのに、まさかあなたがそんな人になるなんて。なんで? 晩ご飯の量足りないの? 深夜のラーメンなんて、健康に良くないし、体重・脂肪の増加に貢献度大! よ。まあ、あなたはもう少し太った方がいいけど……」
「晩ご飯は足りてるよ」
「じゃあ、なんで?」
 不機嫌より不思議さを全面に出した妻の顔。
 僕は思わず微笑んで、妻の頭を軽くたたく。
「なんでだろうなあ」
「答えになってない!」
 ぷりぷり怒っている妻の頬に軽く口づけして、僕は家を出た。

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こ、これ、恋愛物なのかしら?と自分でも思うんですが・・・・・。他に分類付けできないもんで。
萌えるような愛情はないけれど、二人の間に通い合う暖かい感情は感じられ・・・・ますか?(訊いてどうする)

このお話、最初は「妻知らずのララバイ」というタイトルでした。
いや、もうちょっとくさいタイトルをつけたくてこれにしたんですが。内容が伴ってないとしても。

この話を書くきっかけとなったのは、会社帰りに家々からもれ出る夕餉の仕度の香りに、「なんかシアワセな
気持ち♪」となったことです。
あれ、不思議ですよね。なんでそれごときで幸せになれるんだろう。

夜中に隣でうめき声を上げられる、と言うのは実家で経験済みで…いや、私はこの主人公ほど繊細じゃないんで
早々に眠ってしまいましたが。
どうやら母が泥棒に入られる夢を見ていたらしい・・・。

あと、世のダンナさまは結構夜食を食べられるそうで。いや、私の回りだけかもしれませんが(おっくんはそんなこと
ないけど。とういうか、夜食を食べるほど遅くまで起きてられない)

まあ、そんなこんなのプチ集大成なお話です。
オチもなんもないけど、「?」というへんてこな気持ちがみなさんの心に残ったらこの話は成功です。
そんなのがあったら感想下さい♪