魔法のランプ

笑説サイト同盟開設記念
三題噺
お題目は
「竜」「息切れ」「断食」

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 祖父のガラクタ道楽は少々度が過ぎていたようで、大きな蔵は役にたたなさそうなモノであふれ返っていた。
 私の代になれば某人気テレビ番組で蔵ごと鑑定してもらい、ごっそり買い取ってもらおう、と企んでいるのだが、今のところは祖母に鍵を借りて蔵の中をぶらぶらする程度のことしかできない。
 白熱灯の赤黄色の光は骨董品の保存には最適かもしれないが、品一つ一つの判断を下すには骨が折れる。元々、買うだけで満足してしまって、整頓したり、出して眺めたりする気などなかったのだろう。金持ちの羨ましい買い物趣味だ。
 と、古い木箱の並ぶ中に異彩を放つ置物があった。
 アラジンのランプ。
 アラジン、といっても石油ストーブメーカーや一発屋の歌手グループではなく、ディズニー映画にまでなったアラブの盗賊のアラジンである。
 手に取る。
 と、埃がわんさか舞う。
 咳をしながら蓋を開けようとする。
 が、開かない。
 くすんだ上に埃まみれでデザインも細工もあまりぱっとしないランプ。
 ……まあ、お約束だしな。三文小説でもない限り、何も起きやしない、って。
 私はポケットに入れていたハンカチでランプをこすってみた。このハンカチ、明日から雑巾行きだな。
 と。
『よくぞ俺様をこんな所に閉じ込めてくれたな〜!』
 げ!? 三文小説!
 なんだかよくわからないオリエントな空気と煙、そして怒声と共に狭いランプの口から飛び出して来たのは――頭に描いていたモノとは随分違う、あえて言うなら、だった。
 竜、といっても龍の子太郎を乗せて某日本昔ばなしのオープニングに出ていたものとは違う。火山に潜み、火を吐いたりするタイプの、西洋の竜のようだった。
 なんてな事を思ったのは後からで、この時は私は首を締め上げられ、無我夢中だった。
 竜の言葉から、どうも私をランプに封印した人物と勘違いしているらしい、と酸欠の頭で気付いた私はかろうじて首を横に振った。
『うおっ!』
 私の思いが通じたのか、締められていた力がゆるまり、床に落とされた。
 視界に星がチカチカ光り、何も見えない。息切れして何も言えない。
 ただ、竜がランプと共にじたばたしている気配が感じられた。
『は、腹がつっかえて出られねえ〜!』
 ……なんてオチだ。


「食べ過ぎ?」
『ああ。幸い俺様の魔力は無尽蔵。美女をはべらすも美食の限りを尽くすも自由自在。っていうか、暇だしな。それぐらいしてないとつまらなくて仕方がねえ。それでいい加減飽き飽きした所にようやく封印が解けた、ってのに……このザマだ』
 いわゆる「くまのプーさん現象」だ。入って食べて、出られなくなる。ただ、プーさんと違って、つっかえたのが軽いランプの口だから、引っ張ることもできない。そして、プーさんと違って戻ることは可能だろう。しかし、その為には……。
「もう一度、ランプに戻るしかないですね」
『お前、喧嘩売ってるのか』
「いえまさか」
 こんな勝ち目のない喧嘩、売って何の得になる。
『上半身だけでも充分魔力は使えるからな。ここで炎を吐いてお前を消墨にするのも可能なんだぞ』
 そんな火気を用いられて、蔵を燃やされてはかなわない。
 ……じゃない! それ以前に私が死んでは元も子もないではないか。
「めっそうもない! そうじゃなくて――少なくとも、ランプに封印されたときはお腹がつっかえた訳じゃないんですから、そのときの体型に戻れたら出られるんじゃないか、って言いたいんですよ」
 しかしランプの口から、ではなく蓋から入れられた場合はどうだろう。
『封印の時は蓋から入れられたぞ。本当に大丈夫なんだろうな』
 ……嫌な所を突くな。そんな事まで私が保証できるか。
「大丈夫だと思いますよ」
 あははは、と安請け合いする以外、何ができる。
「じゃあ、一週間ぐらいしたらまたランプこすりますんで、断食でもしてダイエットしてください」
『……断食?』
「それが一番手っ取り早いでしょ? あ、あと、ちゃんと出られたあかつきには、願いを……」
『判った判った。じゃあ、七日後な』
 出てきた時の勢いは何処へやら、しおしおと竜はランプに戻っていった。
 そして、後には埃にまみれた私が残される。
 まるで夢のような一瞬の出来事。
 だが、埃まみれの安っぽいランプはそこに存在していた。
 しかし――何だって私はランプの竜にあんな丁寧で卑屈な態度をとってしまったのか……。筋で行けば、私が主人じゃないか。
 よし、こんどは私が主人と知らしめるために、強気でいこう。


 約束通り、一週間後に蔵にくる。
 祖父が亡くなるのを見て取ったように、二週続けてやってきた私に祖母はいい顔をしなかったが、そんな事は気にならなかった。
 今日から私は竜使いだ。
 三つの願いももう決めた。いくら三文小説でも、これ以上のオチはつけられまい。前もって「入った時は蓋からだったから口からじゃあ出られない」なんてオチは暴露しておいて封じておいたし。
 棚の上に鎮座して私を待っていた魔法のランプを手に取る。
 先週も使った雑巾行きのハンカチでランプをこする。
『よしよし、ちゃんと約束を守ったな』
 先週よりはややスリムになった竜が、今度はちゃんと全身ランプから現れた。
 見上げる高さの竜に、気圧されそうになるが、なんとか胸を張ってえらそうにする。
「こっちも約束を守ったんだ。そっちも約束を守ってもらおうか。三つの願いを――」
「いや、ひとつでいいぞ」
「――え? それじゃあ約束が違う」
 言いつつ、もし願い事を一つに絞るならどれがいいんだろう、と考え始めていた。
 ああ、やっぱり弱気になってしまう。
『いや、一つでいいぞ。俺様の願いを叶えさせてくれるんだろ? 一週間も断食して腹ぺこだ。食わせてくれ』
 言うなり竜は私をつかんで口を開いた。
「それがオチかー!?」
 それが私の最後の言葉となった。

                            (おしまい)
                           初書 2001.12.4.

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 今回は企画もの、と言うことでこんなところにこっそりあとがき。
 トップにバナーリンクをはっております「笑説サイト同盟」というところに私は席(籍?)を置かせていた
だいているのですが、今回開設記念、と言うことで「ダイスで決める三題噺」という企画が持ちあがりま
した。
 20分の3で決まるお題目を取り入れてお話を書く、しかも笑説で、という企画ですな。

 企画が決まって発動するまでの間入院していたりして出遅れるかと実はヒヤヒヤしていたのですが、
無事に乗っかることが出来ました。
 バナー1番目の人間がのっけから落としてしまう、という業を使ってはまずいでしょう。
 暇がある間になんとかひねり出さないと、ということで二日ほどで書き上げてしまいました。

 出来のほうは・・・「私でなくても書ける中途半端な笑説」というのが自己評価です。
 っていうか、笑説かどうか、判断が難しいところですよね。
 このお題目でラブコメとか作れたらよかったんですけどね。

 さて、「笑説サイト同盟」これからも何か企画を持ち上げたりするんでしょうか・・・?
 だったら、そのうち別のコンテンツ作るかもしれません。

 しっかし…突っ込まれる前に自分で言うのもなんですが・・・強引なお題目の入れ方。いいのか?
こんなで。

 まあ、なんぞいいたいことがあれば笑説サイト同盟批評掲示板に書きこみどうぞです。